心の対話 「良い素材があるからこそ」いくら良いものがあっても、知られなければ存在しないのと同じなんです 〜渡邉英彦〜 作り手の視点だけでなく、消費者の視点に立つことも本当に大事ですね 〜清信一〜

"対談 柚野の里から 富士錦酒造と同じ芝川町内で有機農業に取り組む松木一浩氏。30代後半に東京から移住してゼロから農業を始め、今やレストラン営業も含めた大規模なプロジェクトを進行中のスーパー農業人だ。話を聞くのは、都会から柚野に移住したという意味でも、日本の食文化への思いという意味でも、共通点の多い同年代の清社長。今年の酒の仕込みを前に、松木氏に小社の田園にお越しいただき、以前から熱望していた対談がついに実現した。

目次

レコードのB面から意外なヒット曲が生まれるのと同じで
清  まずは乾杯ということで。
渡邉 乾杯! やっぱり富士錦はおいしいですね。
清 ありがとうございます。
渡邉さんもB−1グランプリ(注1)の成功、おめでとうございます。
(対談時はB−1終了直後)
渡邉ありがとうございます。
すごい人手だったので、
何とか無事に終わって良かったなとホッとしているところです。
清 B級という言葉は、本来ならマイナスのイメージですが、
それをプラスに転用したところがすごいですね。
渡邉私としてはA、Bという序列ではなくて、
メジャーかマイナーかという考え方なんですよ。
必ずしもマイナーが劣っているわけではないし、
裏ワザみたいな意味合いですね。

年輩の人ならわかるけど、
レコードのB面から意外なヒット曲がうまれる
というイメージなんですよ。
清 なるほど。
たしかにマイナーでも素晴らしいものはたくさんありますよね。
渡邉そう。A級だろうがB級だろうが、良いものはある。
それをどれだけ多くの人に、
わかりやすく伝えられるかどうかですね。

でも、特産品とか地元のものを売ろうとすると、
どうしてもクオリティとかコストとか
作り手側の問題に入りこんでいく。

本当はどうアピールするか、
消費者に知ってもらうかということが大事なんだけど、
意外にそれが忘れられてしまうんですよ。

だけど我々は一般消費者の立場なので、もっと緩い感覚で、
こんなふうにやったら楽しいねみたいなノリで、
地元の素材を応援して町おこしにつなげたいと思って
活動しているわけですよ。

とにかく一度食べたり飲んだりしてもらわなければ、
何も始まらないわけですから。
清 おっしゃる通りですね。
私が富士宮やきそばを食べたときも、
初めてなのになぜか懐かしさを感じたんですよ。
そういう意味でも多くの人に共感を得やすいんでしょうね。
渡邉そうですね。子どもの頃に駄菓子屋に行ったり、
身近なところでやきそばを食べてきた経験は誰にもありますからね。
昔、食材が十分にないような時代に
工夫されたレシピがそのまま残っているから、
余計にノスタルジックなテイストを感じるんでしょうね。
清 渡邉さんのPR手法には、
ダジャレを使ったり必ずひとひねり加わりますよね。
渡邉だって、
これ(富士宮やきそば)を正攻法で出したってダメだもん(笑)

切り口は何でもありだと私は思っているんですよ。
物を買うかどうかは消費者が決めることであって、
作り手が決めることじゃないですよね。

だから専門家から見たら
『こんな物を作ったって……』と感じるものでも、
素人から見れば、面白がって買ったりするわけですよ。

でもまあ、富士錦がお酒のプロモーションをするのに、
私のようにやれというのは無理だよね(笑)

ただ、あまりに歴史とか伝統に縛られてしまってもどうかなと。
とくに今まで関わりがなかった人たちにも知ってもらうためには、
違うやり方があってもいいんじゃないかとは思いますね。
味は伝えられないから、情報として伝えるしかないんです
清 たしかにそうですね。
東京で試飲会をやるときにも、
『静岡のどこなの?』と聞かれて富士宮ですと答えると、
『ああ、やきそばの?』と必ず言われます。
これほど浸透しているのは、あらためてすごいことだなと思います。
渡邉そう。知ってもらわなければ何も始まらないんですよ。
『存在するとは知覚されることである』
という哲学者の言葉があるけど、
いくら良いものがあっても、
消費者が認知していないものは存在しないのと同じなんです。

富士宮のやきそばも、
1999年までは地元の人が食べ続けてきた
富士宮のちょっと変わったやきそばがあっただけで、
地域ブランドとしての『富士宮やきそば』は
存在していなかったわけですから。
清  本当にその通りですね。
渡邉そういう話をすると、
『まずうまいものがあるということが大事だ』
と言う人が必ずいます。
それは私も当然わかっているし、大前提です。

ただ、うまいかまずいかというのは、
消費者が食べてみなければ判断できない。

だから、食べてみるとか飲んでみる
という行動につながる情報が重要なわけじゃないですか。
どんなメディアを使ったって、
味そのものは伝えられないですから、
情報やストーリーとして伝えるしかないわけですよ。
清  そこにB−1グランプリの価値があるわけですね。
渡邉そうなんです。
まずどれだけ多くの人に知ってもらうか。
知ってもらえば、
買ってみようとか行ってみようと思ってくれるわけですよ。
清 そうですね。
私たちのお酒も、
一度の飲んでいただければわかってもらえる
という自信はあるんですが、
本当にお酒しか造っていないので、
そういうアピールの部分はどちらかというと苦手なんですよね。
渡邉それは当然でしょう。
清さんたちのように良いものを作っている人は
たくさんいるんだけど、
それを伝える作業を全部自分たちでやりなさい
と言っても無理がある。

だから、地域にマイナーな状態で埋もれているんだけど、
潜在力はすごくあるというものがたくさん存在するわけです。

当然、富士錦のお酒も
地元の自慢できる素材であることは間違いないわけで、
それを会社として宣伝するのは当たり前なんだけど、
地域にとっても町おこしのツールとして
すごく可能性があるわけです。

そういう市民活動的なものと、
企業の努力と行政のバックアップなんかがうまくかみ合うと、
大ブレークするんですよ。
それが富士宮の場合は、
やきそばという素材を中心にかみ合ったということなんでしょうね。
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※注1 B−1グランプリ B級ご当地グルメの祭典として、2006年から毎年行なわれている全国大会。B級グルメによる町おこしを支援するイベントとして年々注目度が増している。順位は実際に食べた来場者の投票によって決まり、富士宮やきそばは、第1回と第2回で連続優勝。全国的な注目度を一気に高め、すでに殿堂入りしている。今年9月に行なわれた第5回大会では、甲府鳥もつ煮がグランプリを受賞。

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