蔵元便り 柚野の里から

2001年01月

手入れ風景

久方ぶりに雨が降り、一夜明けた朝には驚くほどの雪化粧をまとった富士山が顔をのぞかせていました。
おしめりの後のすんだ空気の中、早朝の冷え込みは景色同様ひときわと厳しく、蛇口をひねる手もかじかみます。
そんな寒さの中、日が昇る前から蔵の中で働く蔵人たちの姿が頭をよぎり、新酒の仕込と出荷を向かえたあわただしい富士錦の一日が始まりました。
師走も過ぎ、芳醇で新鮮な「新酒」もすでにしぼられ、今まさに次々と新しい酒がタンクを満たし、落ち着くまもなく瓶詰めされ、皆さんのお手元へと次々に出荷されていきます。
新鮮な旬な酒の味は、みなさまに笑顔をお届けできたでしょうか?
しぼりたて生原酒の迫力ある 「味」 と 「あとあじ」 の華麗さは、やはり富士錦の特徴をそのまま味わえる酒であると、蔵元一同自負しております。
ところで、今年の富士錦の酒造りは、非常に緻密な造りになりそうです。
というのも、放冷機 (蒸し米を急速に冷やす機械) という大型の機械を筆頭にして、さまざまな先人たちの知恵が生かされた道具の手入れが目に見えて行き届き、また、その手入れをする風景を目にする回数も非常に増えているからです。
つまり、「道具が仕事をしやすい」 言い換えるなら 「蔵人が仕事をしやすい」 環境が格段にレベルアップしているからです。
一夏かけて、畑福杜氏が口説き落とした叩き上げの蔵人が 「道具を使いこなすこと」 の意味を身をもって教えてくれています。
ところで、数年前に蔵元が知人から一握りの種もみを頂戴しました。
それは、黒い稲穂を付ける米のルーツともいえる貴重な古代米のもみです。
「私が持っていても何の役にも立たないけれど、君の役には立てるかもしれないから」 と頂いた物です。

その一握りの種もみを3年かかって五畝分にし、黒米稲穂巻酒のコモとして昨年より商品化に成功しています。
新世紀を祝う節目の年に、こんな古代米を飾り千年の時を思うのもまた楽しからずや・・・
今年も皆さんにとってよい年になりますように・・・