蔵元便り 柚野の里から

2001年07月

国際価格

 オレンジ色のザクロの花が、初夏の梅雨空に一層冴え、ラッパ型のその可愛らしい花びらからは、大勢の子供たちが奏でる鼓笛隊のメロディーも聞こえてきそうな感じです。
そんな中、サッカーのコンフェデレーションカップに大興奮した人も多いのではないでしょうか。
試合ごとに力をつけ、決勝戦までのしあがった日本チームを観戦するのは、 久方ぶりの胸躍る瞬間でした。
「国際基準・国際価格」なんていう言葉が叫ばれて久しくなりました。小さな地酒やである富士錦にとっては、一呼吸をおいた言葉ではあります。でも、まったく関係のない訳でもないのです。
最近、農・水産物の国際価格に関する問題がクローズアップされていますね。
例の「セーフガード」なるものでそれらの価格を気をし始めた人もいるのではないでしょうか?
海外の農産物は安い、国内のものは高い。だから海外から輸入する。でも、そうすると国内の農業が打撃を受ける・・・ だからそれゆえに「セーフガード」で輸入を規制する。
まあ、簡単にいえばこのような図式で、国内の生産者保護のためにはいたし方ないことなのでしょう。
しかし、見方を変えれば、「海外からの輸入を規制しなければ国内の生産者が守れない」ほど、国内の農・水産物は国際的には「高いもの」ということになるのです。
これらのことは、酒の原料である「お米」についても例外ではありません。
現在、清酒業界は政府の農業政策の元、大手も中小も、もちろん富士錦も国産米を使用しています。
これは、国際価格からすれば極めて高い「お米」でお酒を作っていることになるのです。
しかし、なぜ日本の作物が高いのかを考えてみれば、技術立国を国の柱に成長してきた日本にとって、農政はいわば「蚊帳の外」・・・お寒いばかりか衰退の一途をたどるさびしいものだったからです。
その結果、日本の穀物自給率は20%以下。ちなみに、先進5カ国の中で自給率が100%を割る国はありません。それに加え、農業の後継者は少なくなり、今後の日本農業はかなり危機的な状況です。
人類の永い歴史の中には「農業が滅びるとき、その国は滅びるしかない」という法則があります。
食べ物を他国に頼る国は、結局国際社会の中では赤子同然、自立した存在にはなり得ないということでしょうか・・・。
柚野の里に広がる水田と、所々に点在する休耕田。 また、そこを流れる水は豊かで水質も良好です。

この豊かさは、アメリカにもフランスにもどこにもない日本ならではのものです。
これこそ日本が第一に守り育ててゆかなくてはならないものではないでしょうか。
サッカーの決勝戦を見ながら、本当の意味で日本が国際舞台に立てるのは、農業を含めた日本の豊かさを皆が自覚し、守ることができるようになってからではないのかと思った次第です。