蔵元便り 柚野の里から

2004年09月

夏の名残

 七月に山梨の奥で釣れたと、11匹の鮎を頂戴しました。
その、ピチャピチャと跳ねる元気な様子に、発泡スチロールで簡易水槽を作り、しばらく飼うことに・・・。
はじめは落ち着きなく水槽の中を泳ぎまわっていた鮎たちも、ホースで水を流し始めると安心したかのように列をなして泳ぎ始めました。
それからひと夏、この鮎たちのおかげで、庭にはいつも水が放たれ、外から来る熱風が少しは涼やかに心地よく感じました。
昔から、打ち水をして涼を求める習慣が日本にはありますが、今年ほどその効能を実感した年はありませんでした。
そんな暑い夏を共にすごした鮎たちは、そっと山の上流の川に戻すことにし、今、富士錦の庭は、まるで主がいなくなったかのように、少しさびしげです。
夏の名残を惜しんでいる間に、田は黄色く色づき、トンボが群れを成して飛んでいます。 今年の米は良質の物に育ってくれるか・・・。 稲刈りまであと少し。 思いは酒造りに向かいいます。
先日、岩手にいる畑福杜氏に電話をすると、岩手でも稲の生育は二週間ほど早いとの事でした。
「今年は、入蔵を早くお願いするかもしれません。」と伝えると、「今年の入蔵は、いつもより重たく感じます。」と率直な答えが返ってきました。
春の新酒鑑評会で、これ以上ない成績を樹立し、蔵を上げて喜びに沸いた日を、遠く岩手に帰郷したあと、ジワジワとかみ締めていたが、稲の成育と共に、今度の造りへのプレッシャーが攻め立ててきた・・・。 そんな畑福杜氏の心情が、電話口を通して切々と伝わってきました。
折りしも、アテネオリンピックに沸いた今年。日本のメダルラッシュに、テレビから離れることが出来なかった人も多かったのではないでしょうか。

伸びやかに活躍する選手たちの何とすがすがしく爽やかなことでしょう。
彼らの志の高さを見習って、富士錦の酒を醸していこう。酒造りは毎年が一年生。 そんな風に感じた滋味深い夏でした。