蔵元便り 柚野の里から

2004年11月

思いもかけない月

庭の柚の実が黄色く色づき、たわわに実っている枝ぶりがくっきりと浮かび上がるような秋の柚子の里です。
10月は台風の合間の晴れの日を何とか見つけて、奥手の山田錦を刈り取り、相次ぐ台風の来襲に備えた、「台風対策」に追われる思いがけない月となりました。 そして、台風に一息ついたら新潟では中越地震・・・。
夏の猛暑で米は大豊作が予想されていましたが、秋のこの相次ぐ災害に、最終的な作況指数は98パーセントにとどまり、豊作地とそうでなかった地域に色分けされてしまいました。
野菜の高騰は言うまでもなく、「とんかつ」の主役は「かつ」ではなく「千キャベツ」がふさわしいような高騰ぶりに、主婦といわず日本中が驚かされています。

「中越地震」以降、「避難所生活」という活字が新聞などで多く目にします。
私は、この「避難所生活」という活字を見ると思い出す一つの新聞記事があります。
「阪神淡路大震災で被災され、避難所生活を余儀なくされた男性の話です。
家を失い、会社を失い、家族と他人との仕切りもない避難所生活を続ける胸の内が語られているものですが、その生活の中で一番欲しかったのが実は酒だったと話しておられました。
日頃、そんなに愛飲したわけでもないが、すべてを失ったやりきれなさとこらえきれない不安の中、辺りが暗くなると一層その思いは強くなり、酒でも飲まなくては正気でいられるものかと強く感じたが、そんなことを口にするわけにもいかず、心のやりどころに本当に苦労していた様子が語られていました。
「酒さえあれば・・・」 その端的な言葉の強さに、以来、心の片隅に残りました。  お酒は深い悲しみに寄り添うもの・・・。 そんな思いも持ちました。

そんな中、畑福杜氏が入蔵し、富士錦では例年より早く酒造りが始まりました。
「人に寄り添う酒」を念頭に、喜びの酒を皆様に味わっていただける事を祈りながら、半年間酒造りに精進いたします。