蔵元便り 柚野の里から

2005年08月

十年一昔

 台風一過の夜、ふと外に出ると満天の星が雲ひとつない夜空に輝いていました。
この星空の向こうに、「スペースシャトル・ディスカバリー」に乗り、今もミッションをこなしているであろう野口宇宙飛行士のニュースが頭をよぎりました。
この星空を見上げ、さまざまな「夢」を思う人がいらっしゃると思います。 十年一昔といいますが、平成八年に私どもが富士錦の後継者として入蔵させていただき、気が付けば十年を迎えようとしています。
先代若専務の急死という思いがけない出来事があり、酒造業界とは無縁の世界で育った現専務が、清水の舞台から飛び降りるような思いでこの世界に入り、曲がりなりにも十年の歳月を勤めさせていただけたのは、やはり、仕事を通してお会いしたさまざまな方々に教えていただいた「日本酒の魅力」と「人の優しさ」ではなかったかと思います。
周囲の魅力ある皆様のおかげと、とても感謝しています。
毎日、山積みとなっているさまざまな問題に直面しながら、さまざまな葛藤と戦い、それでも「おいしい日本酒を造りたい。」と正直に思い続ける今、これからの更なる十年へと、思いを馳せるようになりました。
ところで、毎年三月に企画するお祭に「蔵開き」があります。
この蔵開きに、富士錦は出来るだけ多くの皆様に大吟醸を飲んでいただきたいと思っています。
なぜかと申しますと、まず、富士錦の最高技術を駆使し最上級の米で仕込んだ「フラッグシップのお酒」でおもてなしをしたいから、という気持ちと、大吟醸というお酒が、日本酒を初めて口になさる方にも、日本酒のイメージを一変させてくれるわかりやすい華やかな魅力を持ったお酒だからです。
まず、知っていただき、従来の日本酒のイメージとの違いにちょっとびっくりしていただく。 それから、奥深い日本酒の魅力をご紹介できたら・・・と思っています。
これからの十年を思う時、この蔵開きの時の気持ちに辿り着きました。

いかにして日本酒の魅力を伝えられるか・・・。そして宇宙に飛び立つ野口さんのように魅力ある夢ある会社に少しでも近づけるような、十年としたいと思います。