蔵元便り 柚野の里から

2007年12月

冬が来る前に…


冬が来る前に・・・、そんな思いで過ごした晩秋でしたが、ふと気がつくと、あぜには霜が降り、早朝には窓ガラスが外気との温度差で曇って、そこに手袋をした子供達が絵を描き合っている、冬の朝が始まっていました。

急に寒くなりましたが、お元気でお過ごしですか?今年は鈴なりの柿をお蔵さん達が干し柿にして、軒を彩っています。
富士錦では、お陰様で今年も新米が入荷して酒造りが始動しました。
和釜で今年の蔵出し一番となる「しぼりたて原酒」の米を蒸し始めたのが十一月三日です。それから約一ヶ月、現在、仕込み蔵のタンクの中で、フツフツと泡立つ白い醪はいつにも増して香り高く、蔵の活気を物語るようです。「今年も新酒が出来ました。」のご挨拶がわりに、杉の葉で作った「酒林」を、玄関に掛け替える日も、近づいてきました。


酒蔵で暮らす者として、この時期が一番ワクワクする季節です。どんな酒が生まれてくるのか。
まだ見ぬ赤子の顔を想像するような楽しさです。「酒造りは大和魂です。」と言い切る、勤勉実直な日本人らしい畑福杜氏がひたすら酒造りにのめりこむ、プロフェッショナルな半年が始まりました。
ところで、最近、様々な日用品や身近な食料品が値上がりし、又、大豆や魚など
世界で食料の争奪戦が行われている実態が、報道されるようになってきました。そして、命の源泉である欠くことの出来ない水さえも、確保できない地域も広がっています。
水に恵まれ自然豊かなこの日本で、いかにして農業を営むのか・・・。いかにGNPが上がろうとも、自国の食料を調達できない国は衰退するしかないのは、自明の理。気が付けば休耕田ばかり、そんな農政から、大きく転換することが、現在の最も大切な事ではないのでしょうか?
酒となるために収穫された酒米が積まれた米倉の中で、今の日本の豊かさと、
少し先の未来の明るいことを願いました。