蔵元便り 柚野の里から

2008年05月

先人の願い

先日、半年間の酒造りを終えた杜氏達を、新富士駅まで見送りに行きました。桜ふぶきが華やかに散る朝、晴れ晴れとした笑顔の蔵人達の表情は、達成感と一冬の様々な出来事。気が付けば次々と話は尽きず、車の中は時に笑いの渦が起こり、明るく再会を約束して駅で別れました。

 独りになった帰りの車中で、蔵人たちが帰ってから毎年行っている様々な事を思い始めました。
みんなが一冬過ごした部屋の掃除をし、ふとんを干して、食器を片づけ・・・その一つ一つは、半年間の労をねぎらう儀式のようなものです。そして、次の冬までに行う事・・・。
蔵では何かしらの修繕や改良などを、この時に毎年行っています。建物の補修、道具の修理、布類の縫製や機械の移動など、その全ては、今年よりも良いお酒を醸す為に、行っている事なのです。
富士錦には十八代続く長い歴史がありますが、先祖様たちが、そう考えて行ってきた事の上に、今の富士錦があります。
ところで現在、過去には無いほどの早い時代の流れと変化が、世間を包んでいます。燃料の値段がコロコロと変わり、保険料が突然上がり、食料品の値段が上がり、しかも食の安全が危機にさらされ、挙げ句、オリンピックの聖火が世界を逃げ回るような有様・・・。
先人が、未来を見越して、様々な先手を打っていたはずなのに、なぜこうなってしまったのか・・・この先はどうなるのか・・・とにかく、何かが変に思えて仕方がありません。

ネット社会の現在、お互いの顔を見ながら心を通わす機会が、極端に減ってきているからなのでしょうか?
もしそうなら、お酒を酌み交わしながら、お互いの胸の内を語り合う、そんなニッポンが戻ってきて欲しいなぁ・・・と、帰りの車の中でぼんやりと思うのでした。