蔵元便り 柚野の里から

2008年10月

実りの秋、事故米なんて

 秋の薫りが里を満たしています。9月の声を聞くとすぐに始まったこの地の稲刈りも終盤を迎え、
豊かに実った黄金色の稲穂は脱穀され玄米となり、その籾殻の山を焼く燻すような薫りと彼岸花の赤が目にあざやかな、柚野の秋の深まりです。
しかしながら、収穫の秋と喜んでばかりもいられない、今年の9月でした。突然ふってわいたような「事故米転売」事件に、大きく翻弄された酒造業界の 一端を担う者として、そのあまりにもずさんな国の対応と三笠フーズのモラルを失した例を見ない悪質さに、怒りと失望を感じます。
事件発覚後、まず弊社の酒造米の確認を行いました。富士錦の日本酒は、弊社の自社田米と静岡県酒造組合を通し、全農系の正規流通先が扱う静岡県産米、そして優良な酒造好適米の産地にて栽培された山田錦等によって醸しております。
今回の事故米問題に関係する業者とは、一切取引が無いことを確認しておりますので、ここにご報告致します。どうぞご安心下さい。
お取引いただいている酒屋さんからお問い合わせをいただき、証明書を発行しながら、「なぜこんなにやすやすと、汚染された米が食用米として転売されてしまったのか?」という疑問と悔しさが湧いてきました。
食料自給率の問題も含め、日本の農政は次世代が担う農業の新たな方向性としくみ作りの政策を、全国民にわかるように示し推し進めるべきです。
明治・大正・昭和そして平成と、かつて酒造業界を圧倒的な管理下においたあのリーダーシップを見習って欲しいと思います。

 現在、蔵の中では芋焼酎の仕込みの真っ最中です。静岡県の袋井市で採れた、この大ぶりのさつま芋は、3年目にして最も立派な大きさです。 この芋焼酎は、海岸部の風害により畑が砂化したため、さまざまな試行錯誤を経て芋の栽培を試み、地産池消を目指して委託製造されました。

芋の栽培者・寺田さんは、話すたびに新しい有機たい肥や栽培方法を試してみたとおっしゃる研究熱心な人。やはり、生産者の栽培に対する熱意が伝わってくるのは、酒造家にとって大きな事です。
日本酒造りは米造りから・・・。
昔から伝わるこの言葉を、深く思い起こした9月でした。