蔵元便り 柚野の里から

2009年08月

目標

 四十六年ぶりの日食は、残念ながらあいにくの曇り空でしたね。しかし、自分の一生の内これから二度と見れないかもしれないこの天体ショーに、興奮した人も多いと思います。晴れて欲しかったですねえ。
毎朝、傘をさしながら事務所に向かうと、いつも、雨具を着て長靴を履き田んぼに向かう、スタッフの後ろ姿が見えてきます。田んぼの水の管理をしている斉藤君です。
その後ろ姿は、二~三年前に比べ肩幅もがっちりと広くなり、その背中が生き生きと楽しそうです。田んぼとは無縁の住宅街で育った彼が、現在は、米作りと真面目にコツコツと向き合い田んぼで汗を流しています。日焼けした田んぼで働く手は、雄弁にその意思の強さを物語っています。

先週、弊社で育てている静岡県の酒造好適米「誉富士」の圃場の生育調査に来て下さった農業試験場の方々に「よく管理されてますね。」と、評価していただきました。その時の話を笑顔で報告する彼の顔を見ながら地味で力仕事の多い農作業は、つらい事の多い分、それをきちんと前向きに受け止めこなしていくと、心がグッと鍛えられていくんだな、と実感しました。
そしてその先には、もの言わぬ作物を心をかけて育てた分、それにこたえて作物も成長する、そんな農作業のおおきな魅力が、人を生き生きとさせてくれる様です。
ちょうど昨日、時折ひどく激しく雨が降る中、その中で田んぼに入り稗を取る母の姿がありました。田で鍛えた母の指の関節は太く、まさに働く手です。
強い雨足にも負けず、あと少し、この列までと稗取りに励んでいました。長い経験で自然と身につけたその姿は、やはり人の心を打つ強さがありました。勤勉で謙虚な大和魂の日本人の美意識、そのものです。
目標とする人は、まだ遥か遠く見えますが、心を鍛え夢を持ち、酒造りに励みたい、と思う、雨も文月です。