蔵元便り 柚野の里から

2010年05月

見えない力

いつになく長く楽しめる桜日和の4月でした。その花やかな春の余韻に見送られて、畑福杜氏達も、半年に及ぶ酒造りを見事にやり終えて、晴れやかな表情で家族の待つ岩手に戻って行きました。
ところで、酒造りで最も作業量が多いのは、各工程から発生する地道な「洗い」の仕事です。道具の洗い・布の洗い・タンクの洗い・そして米洗い。
地味で目立たない「あとしまつ」の仕事を、畑福杜氏は徹底して「洗い」ます。
今月の初めには、こんな出来事がありました。


もう十数回洗い場で洗って、「これ以上ない位キレイになった。」と思う敷き布の洗いを報告する蔵人に、畑福杜氏は瞬時に「あと三回、水洗い。」と指示を出しました。
その表情は、迷うことなく当たり前のように、「あと三回。」これ以上洗っても同じなんだけどなあとぐちるような蔵人の表情を尻目に、その確固たる三回は翻ることはありません。
それは、目に見えない麹菌を育て、日本酒を醸していく杜氏の「目に見えない力や言葉では伝わらない感触」を感じる力量です。
的確な仕事の指示は、その確かな酒質に現われ、蔵の中は、いつも清々しく洗われ気持ちが良く、きちんと整頓されています。
杜氏のように目には見えない力を信じることは、自分の未来を信じるように、簡単なことではありませんが、迷った時に背中を押してくれる一押しは、きっと目に見えない力だと思います。
だから、まず自分を信じることが大切なんだと思います。


初々しい新入生や新社会人に多く出会った今月は、自分の未来を信じて今をわくわく過ごす事の大切さを、いつもより多く感じました。明るい未来を描きましょう!