蔵元便り 柚野の里から

2011年05月

命の水の味わい

むしろの上に広げた種もみを手に取りながらチェックをしている後ろ姿に、「芽が出てる?」と声をかけた。米作りスタッフになって五年目の斉藤君は、「今年は順調ですよ。」と確かな表情で、田植えまでの段取りを確かめるようにじっくりと話し出した。
去年と同じように気温が上がらない春。なかなか発芽しなかった去年のほろ苦い体験があるので今年は予定通り芽を出してくれホッとしていると…。


もう一人、データ入力の仕事を毎年蔵開き後数週間担当する、我が社の最年少スタッフ弱冠二十歳の柴田さんは、弾ける声で「このアンケートには、富士錦の蔵開きが我が家の一大イベントになっています。今年も開催してくれてありがとうって書いてくれているんです。こんな風に書いてもらって嬉しいです。」と、話す。
皆様からいただく貴重なご意見は、彼女のように若い柴田さんにとって、目から鱗のような感覚があるようだ。様々な意見に接することは、大きな刺激となっているのが、伝わってくる。この小さな酒蔵を支えてくれるスタッフ達の一年ごとの成長は、仕事への自負となり、節目ごとに感じられる何よりの会社の力だ。
3月11日以降、未だ日本の暗中模索が続いている。そんな中、被災地の酒蔵の真摯な情報発信力は、傑出していると感じるのは、私だけだろうか…。


岩手の蔵元が「お花見を自粛するより、していただいた方が私達としてはありがたい。」と発信し、飲むことでの被災地支援もあることを提言。日本中の自粛ムードから応援ムードへのひとつの布石となった大切な発信だったと思う。
また、数多くの被災された蔵元さんも被災状況を写真と共に正確な被災状況と復旧具合をホームページに掲げて、現状を正確に伝える蔵も多くその誠実さを感じることができる。
そして、どの蔵からも郷土への思いが溢れている。故郷に連綿と長きに渡り、育てていただいた地酒蔵の思いが沁みてくる。
酒は命の水。酒の味は、今日生きた味わい。そして、大切な人との絆を感じさせてくれるもの。一日の終わりに、今日を味わおうではありませんか、大切な人と共に…。