蔵元便り 柚野の里から

2011年06月

上を向いて

今月、里は田植えの最盛期でした。一年のうちでも最も田んぼが晴れやかなこの時期に、花菖蒲がまるで武者人形のように早苗の側に凛々しく咲いていました。今年は、その潔力強い姿にいつになく心惹かれ、毎日見ては、心躍る瞬間を楽しみました。

紫色の花弁は上を向き男らしく、刀の様な葉先はまるで切れるようなシャープさで力強く、大和魂そのものの日本の風景だな、と。
東北の被災地に上がる鯉のぼりや大漁旗が復興への旗印となっているニュースを見ると、生きる勇気は、そんな伝統の習わしや花に宿っているんだな、とそんな風に感じました。
富士錦の田植えも、酒米の王者・山田錦と静岡県の酒米・誉富士を無事に植え終わり、お赤飯を炊いて、ささやかに田植えの労をねぎらいました。
ちょうど、その頃は、神奈川県の足柄茶が放射能による自主回収の発表があったばかり。お米は本年より米トレサビリティ法が施行されて、生産者から消費者までを繋ぐ米の産地表示されるようになりました。
万全の体制が出来たかと思われましたが、今年の秋は、その上に放射能の問題を踏まえ、消費者の皆様にいかに安心してお届け出来るかの施策をしなければ、と、考えています。

ごく普通の田舎暮らしの中に、持続可能な社会の答えがある、そんな風に思います。
電気も石油も石炭も無い時代から、造られてきた日本酒という酒。そんな世界に身を置く者として、シンプルにして人の心の機敏に寄り添うようなそんな地酒でありたいと、願っています。