蔵元便り 柚野の里から

2012年10月

折り重なる時

朝焼けが水色の空をピンクに染めて、真っ黒くそびえる富士の山の輪郭を際立たせ、その凛とした風情は、力強く今日の始まりを告げています。グッと涼しくなった夏の匂い漂う里を歩くと、赤い彼岸花が土手に咲き、その隣につややかな栗の実がイガごとこぼれ落ちていました。急に深まる里の秋です。

「秋酒をもって最上の酒とす」と言うように、この季節は実りの秋にふさわしい旨味たっぷりの、まろやかで味わい深い酒が目覚めの時を迎えます。
そんな、秋あがりの酒の第一弾が、今月発売の「純米ひやおろし」。もうお楽しみいただけましたでしょうか?
そして、来月四日には第二弾の酒を極く少量ですがご用意しています。その「熟」という酒は、今年の寒さ厳しい大寒の頃、しぼった酒を生原酒のまま丁寧にビン囲いし、春を越え、猛暑の夏をひんやりとした蔵で眠って過ごし熟成を深めた後、秋を迎え一際科が期を放ち姿をあらわしました。

甘みのある果実のような吟醸香がふっと鼻をくすぐり、米のまろやかな甘みがじわりと広がる口当たりに、喉を過ぎればスッと消える心地よい切れ味。

生原酒ならではの琥珀色の酒は柔らかな旨味と芳醇な香りが優しく調和し、まるく温かみのある味わいです。

折り重なる時間が演出する酒のおいしさを、是非一度ご堪能ください。蔵内にて冷蔵貯蔵するため極く少量しかご用意できません。あしからず…。
力強い富士の山のように、安心感のある秋上がりの国政を期待する九月です。