蔵元便り 柚野の里から

2012年11月

変わる事のない恵み


十月の半ばを過ぎると、富士山に雪が積もり、空の青さが眩しい程の朝を迎えます。夜中の冷え込みに起きあがり、毛布を引っ張り出してもう一度床に着くなんて事をしたりします。

さて先日、海外の新聞とテレビの記者達が、大勢やって来ました。富士山が世界文化遺産に登録された際に自国に紹介する為の準備取材の為です。
アジア、米国、EUなどの記者達が、物珍しそうに取材をしていました。
古くから富士山の恵みを活かした伝統的な産業として、養鱒場と我々造り酒屋が選ばれたのですが、最後に試飲をして、賑々しく帰って行きました。

彼らの中には、日本の駐在記者が半分ほど居たのですが、日本酒の蔵元を取材した事のある記者はその中の更に半分ほど。

今回は富士山がテーマだった為、酒造りの話はそこそこに、仕込み水として使用している湧水を見せ、実際にそれを飲んでもらったところ、「ワーオ」と実に分かり易い反応。彼らが口々に言っていた事は二つ。

「綺麗な水に恵まれて飲み水に困らないなんて、なんて幸せなの!」そして、「日本酒は、本当に美味しい。海外にもっと出るべき!」という事でした。

これは富士山が大きな水瓶となって、長い年月を経て地下で濾過された水のお陰。違う場所でお酒を造っても、きっと同じお酒は出来ないでしょうと話すと、大きく頷きながらメモをとっていました。
富士山が世界文化遺産に登録されると、何がどう変わるかは良く分かりませんが、きっと世界から更に注目され、みんなからもっと大切にされる事は間違い無いでしょう。
富士山の恵みに改めて感謝しながら、間もなく今年の酒造りが始まります。現在、蔵の中の清掃と道具類の洗浄を、毎日朝から晩まで行っています。
今年も変わることの無い富士山の恵みを有難く頂戴しながら、美味しい酒が造れるよう願う毎日です。