蔵元便り 柚野の里から

2013年01月

新たな1歩


当社の古い資料の中に、大正14年に記された静岡県内の酒蔵の製造石数番付があります。それによると県内の蔵は186軒あり、その中で富士錦は下から10番目でした。山間の柚野という小さな里で、地元の米を使って地元の人が飲むお酒を造っていたので、それも当然のことでした。

当時、寒い冬に蔵で働く蔵人も、造る量が少なかった為、地元の農家の人たちが冬の農閑期に、自ら造り上げました。
自分たちが責任を持って育てた米を使って、地元の人たちが飲む酒を造る。これが、全国各地の地もとの酒が「地酒」と言われる理由でした。
時を追うごとに清酒の製造技術も進歩しながら、世界各国から新しいジャンルのお酒が輸入されるようになりました。その結果、新しい一歩を踏み出せなかった蔵元は自然と淘汰されてしまいました。
その間、我々は富士山をはじめとする恵みに感謝しながら、おいしく安心してできるお酒を愚直に作り続けてきました。
それは同時に、「よりおいしく」を追求して、毎年新たなチャレンジを繰り返してきた歴史でもあります。
富士錦では昨年より杜氏も変わり、蔵にも更に新しい夢に挑戦する準備が整い、みなさんの要望に耳を傾ける中で、従来の伝統を守りながらも、新しい一歩を踏み出します。
1914年に命名された「富士錦」という銘柄は、2014年ちょうど百年を迎えます。我々の新しいチャレンジにどうぞご期待ください。
現在、続々と蔵の中から醸し出される新酒の出荷に、社員一丸となって一年で最も忙しい毎日を過ごしています。寒さが厳しく一際美しい富士の姿が、全てを洗い流すかのように、新しい年が皆様の希望の年となりますよう、心より願っております。
本年のご愛顧誠にありがとうございました。心より感謝申し上げますと共に、どうぞ、幸多き新年をお迎えください。