蔵元便り 柚野の里から

2013年02月

大寒

 年明けから「爆弾低気圧」が列島を襲い、台風並みの暴風が里にも吹き抜けました。この地では雪こそ積もりませんが、いつになく風の強さより寒さを感じる大寒を過ごしています。グッと冷えますが、お元気でお過ごしでしょうか。
富士錦の正月は、酒造りと共に過ごします。元旦の朝には、恒例の新年のあいさつを蔵人と交わし「新酒 しぼりたて原酒」で皆で乾杯し、思いを新たにします。それから、約4週間。正月に湯気を上げて蒸した酒米が、丹精込めた仕込みを経て、酒となって姿を表しています。
醗酵が完了したもろみを丁寧に搾る、すると、私達の目にはまるで光輝くように映る新酒が、静かに流れ落ちてきます。
その瞬間、期待や不安、緊張感が入り交じった言葉では表現できない想いが蔵の中に充満します。今年のお酒はおいしくできたのか、新たな試みは成功したのか。
三百年以上も毎年同じ事を繰り返してきましたが、誰一人その高揚感に慣れることはありません。

ただ、だからこそ納得のいくお酒が出来たときの喜びも、言葉では言い表せないものがあります。そんな毎年の安堵や歓喜を経て、今年もちょうど今、蔵では大吟醸のもろみが佳境を迎え緊張感ある毎日を過ごしています。
富士錦では昨年より杜氏も変わり、蔵にも更に新しい夢に挑戦する準備が整い、みなさんの要望に耳を傾ける中で、従来の伝統を守りながらも、新しい一歩を踏み出します。
蔵人達の表情は、疲れは見えますが、とても明るいです。
今日は、遠くアルジェリアの天然ガス関連施設で起きた人質事件で、犠牲となった日本人9人の遺体と、無事だった7人が、政府専用機で帰国しました。空の上から、高く聳える富士山は見えただろうか…。真冬の富士山の美しさが、地獄の外地から日本に帰ってきた安堵を呼び覚ましたかもしれない。
過酷な風土と生活習慣の違いに耐え、母国の名誉を背負って最前線でアルジェリアの地につくした方たちに、敬意を表し、富士山に向かい黙祷を捧げます。