蔵元便り 柚野の里から

2002年12月

舌の記憶

 銀杏の黄色い葉が、里の山々に彩を添え、木枯らしが吹く寒い季節があっという間にやってきました。
そんな夕方、日暮れに急かされながら家路へと急いでいると、「こんな日はよくワンタンを作ってくれたなぁ」と、ふと、母の手料理を思い出しました。
暮れかけの景色と、富士山から吹き降ろす風が冬の冷たさを感じさせる一年のうちでも、今日のような日の献立は「ワンタン。」
まさにこれは我が家の家庭料理の記憶そのものです。
我が家の「ワンタン」に限らず、舌が覚えている味の記憶というものは、味そのもの以外にも、季節や温度・天候だったり、もちろん、嬉しかったり悲しかったりという気持ちだったり、ずいぶんといろいろなことがあります。
夕暮れの「柚野の里」を家路へと向かいながら、次から次へと思い出される懐かしい子供時代に思いをめぐらせながら、改めて食べることの奥深さを実感しました。
そんな私が今はまっているのが、何を隠そう「日本酒」なのです。
手前味噌になってしまいますが、「お酒の魅力を今もって知る」 という感じで、引き寄せられるようにこの味わいを楽しんでいます。
きっかけは他愛も無いことでした。
なにやら、片付けなければならない仕事が山積みになり、そのいずれも急ぎの用件で、おまけに自分にとっては少々手強いことばかりという困った状況に入り込んでしまったある夜、「どうにかリラックスしたいな~」と、ふいに手近にあった純米酒を飲んでみたら、不思議と心がほぐれてくるのです。(気持ちはほぐれるものなのですね・・・)
次第に、何とかなるさと思えてきて、「ああ、人はこのためにお酒を飲むのか」と実感したのです。
それ以来、お酒の魅力を再認識したという次第です。

もうすぐ、富士錦からは、しぼりたて原酒を筆頭にふくいくとした新酒が次々と搾り出されていきます。
今こそうまい旬の新酒を楽しめるそんな季節がやってきます。
是非、ご一緒に「”冬”旬の味」を楽しみましょう。