蔵元便り 柚野の里から

2009年10月

闘志

雲ひとつない日本晴れが続き、週末毎に稲刈りが進む柚野の里です。ストンと落ちるように早くなった夕暮れには、乾いたわらの匂いともみがらを燻す匂いが漂って、秋が日ごとに深まって来ました。
平成十八年から、弊社では米に関してひとつ新しい取り組みを始めました。静岡県の気候に合わせて、静岡県の農家のことを考えて開発された新たな酒米「誉富士」による酒造りをスタートしたのです。平成20年からは、自社田での栽培も始め、もうすぐ2度目の収穫を間近にひかえています。
誉富士のルーツになった「山田錦」は、酒造好適米の中でも「酒米の王者」と言われる存在ですが、茎が長く倒れやすいため、生産がむずかしいという弱点があります。


とくに台風の多い静岡では、それは大きなハンディです。それに対して「誉富士」は、山田錦よりもかなり丈が低く、茎も頑丈で倒れにくいという特徴を持っています。
それでいて、米粒の形状や外観は「山田錦」と酷似していて、味の面でもその良い面をしっかりと受け継いでいます。まだまだ研究過程の品種なので、味について多くを語ることはできませんが、富士錦の味の基本ラインとは相性がよさそうだという手応えは得ています。
今年は、田植え期から長い間雨が続き、日照不足を心配しましたが、この所の好天で、ずっしりと太くなった茎に黄金色に実った稲穂を見ていると、「よしっ!おいしい酒を醸せそうだ。」と、自然と闘志にも似た思いが湧き出るから不思議です。半年間の米作りが実りの時期を迎え、その自然の豊かさに力がわいてくるようです。もうすぐ、収穫です。


そして、風が秋風に変わり夜が長くなるこの頃が、日本酒が一番美味しくなる時期です。蔵からは、来月一日には、秋の熟成酒「熟」と新製品「純米酒青ラベル」の発売も予定しています。
実り豊かな秋の夕べを、おいしい日本酒と共にどうぞお楽しみ下さい。
ご予約はお早めに。