蔵元便り 柚野の里から

2015年06月

緑のグラデーション

 霧のように降る雨の中、煙るような柚野の山々は深い緑色に見え、 来月には開山を迎える富士の山も、雨の翌日は白い雪のすじを残し、 ここのところの気温変動の激しさを物語っています。
夜は思いの外肌寒くなりますが、お変わりなくお過ごしでしょうか?
柚野の里では、先月田植えした苗がすっかり地に根付き、 葉の色も早苗の黄緑からすっかり色濃くなって順調です。 山の緑と田の緑、見渡す限りの緑のグラデーションは、この地の生命力をあらわしています。
日本酒は、旨み成分(アミノ酸)が豊富という他にあまりない特徴を持っています。 それは蒸留酒にはない醸造酒ならではの味わいであり、だからこそ調味料としても重宝される訳です。 その意味でワインも旨み成分を含んでいますが、渋みや酸味によって旨みが隠れている面もあり、 日本酒のほうが旨みを感じやすいと思います。
その旨み成分は、料理といっしょに味わったとき、大きな力を発揮します。 料理の旨みと酒の旨みが重なって深みが増す、つまり増幅効果があるからです。 また食材の臭みを消す作用もあり、その意味でも素材の味を純粋に楽しませてくれます。
先日、情報番組の中で、都内で今話題の牛の熟成肉を提供するレストランが紹介されていました。 その中の一コマで、何週間か肉を熟成させる過程で、毎日霧吹きで日本酒を肉に吹く作業が紹介されていました。

旨いものを知る人は、最良の方法をよく御存じだなと、感嘆した一場面でした。 梅雨の雨空の下、美味しいものを求めて料理の腕を振るわれてはいかがでしょうか?
富士錦の中でも、「純米酒」は旨み成分がとくに多く、味も香りも主張しすぎないので、 主役のお料理を引き立てる名脇役だと自負しています。 海の幸山の幸に恵まれた駿河に生まれた幸せを、富士の地酒「富士錦」と共にご堪能ください。