対談

対談 自然も子育ても柚野は宝箱のようなところ

1998年に株式会社ホールアース農場を設立して以来、自らを農業者と言いストイックなまでに農業と本気で向き合ってきた平野達也さん。柚野に移住して感じたこと、柚野で農業を営む魅力とは何だろう。農業を続けていくために考えていることとは何だろう。移住と農業の未来、その将来性の一端が垣間見えるような興味深い対談の模様をお届けします。

清:
平野さんはホールアース自然学校在職中に農業へ転向されたと思いますが…。
 
平野:
ホールアース自然学校で文科省の事業「長期自然体験村」を行なうことになり、清社長はじめ地域の皆さんの協力により、受け入れ態勢などを構築していただきました。まだ若く経験の浅い私たちの企画だったんですが、無理を承知でお願いしたにもかかわらず、なんとかやってくださったことは忘れられません。清さんとはそういう繋がりがあるんですが、やはり「蔵開き」に参加させていただいてからより関係が深まったというか。田んぼの中で富士山を仰ぎ見ながら富士錦を飲む。これって都会の住人からしたら憧れそのもの。ここでしか味わえ得ない体験です。

清:
都会から移住されて来て、当初柚野での暮らしはどうでしたか。
 
平野:
それまで私が暮らしていた東京都心界隈の暮らしとはもう、全然想像もつかないような暮らしで、ギャップはかなりあったんですが、ここは「宝箱」みたいな場所だなぁって思いました。自然が本当に豊かで素晴らしい。子供も移住して来てから生まれたんですが、地域の皆さんにすごくお世話になりました。ここでは大人と子供達との距離が近いんですね。例えば都会ですと、友達のお父さんが働いているところを見るなんてことはなかなかないんですが、ここでは生活の場と職場が近いから、大人たちがどんな暮らしをしているのかがわかる。これは都会ではできない経験です。大人たちが今日はこんな大変なことがあってねとか話してるのを聞いて、子供たちも彼らなりに理解していくわけで。自然と自分たちの周りにある暮らしのことを学び知ることができるようになりますね。

清 信一清:
それは地域で子供を育てる、面倒を見てあげるという考え方が根付いていることもひとつの要因です。子供たちが遊んでいて、あっ危ないなと思ったらごく普通に近くの大人が注意する。で、もっとこうやったらいいよって教えてあげる。そんな中で子供たちは育ちます。柚野での子育てにはこうした強みがあり、そこが魅力かなと思います。

平野:
柚野には毎年、移住されて来る方々がいらっしゃるんです。それで地域住民と移住して来た人たちが一緒にイベントをやったりして、交流の場を設けていますよね。私も薪ストーブを持っているメンバー何人かで森づくりをしながら間伐材を使って薪を作ったり。森での作業は一人じゃちょっと辛いけど、何人かでやれば楽しいんです。

清:
薪ストーブは移住して来た皆さんに大変人気ですね。火の魅力みたいなのがあって、たき火も今は都会ではできないでしょう。集まってたき火を囲んで、お酒があって話が弾んで、移住者と地域住民の関係性も深まって。こういうのは本当に良いなぁって思います。

平野 達也平野:
柚野で農業をやる魅力って何ですかと聞かれて、私はただ広大な土地で機械を使っての農業だったらやらなかったと思うんです。柚野のような山間地でトラクターも入らないような狭い棚田のようなところを、特徴を活かして上手く使うことを考えたり、また日々直面する課題に、どうしたら良いだろうかと考え続けていたり。もちろん先輩方に教えを請うたりはしますけど、それが正解であってもウチの田んぼや畑には合っていないということも多くて。本当に田んぼの一枚一枚で正解が異なるんです。そんな中で新しい発見があったり、一つひとつできるコトが増えて来ると、それが楽しいし、歓びややりがいを感じます。それからここでは毎日富士山を見上げながら仕事ができますし、富士山の麓ですから、農業に必要な伏流水とかの恵みもあります。これはこの地で農業者として働く自分にとっては大きい恵みですね。今現在、移住されて来て農業を始める方々、その多くが法人ではなく個人事業主です。ですから持続的に田畑を維持していくためには、そうした個人事業主たちが集まって法人化を図れば良いのかなと考えます。大企業が取り組むような大組織の法人ではなくても、智慧を集めた小規模法人を運営し、経営を安定させて農業を続けていくことが大事ではないでしょうか。
 
清:
温暖化の進む日本の農業には獣害を始め、深刻な問題があります。もう待ったなしで、行政も一緒に積極的に取り組んで、手を打っていかないとなりません。農業を始めたいけど、何から始めたら良いのかわからない。永住するにはどうしたら良いのかわからない。そういう方々には私たちをぜひ頼っていただきたいんです。農業だけでなく他の業種、例えば大企業の工場などもありますから、そことの連携もとれていて、働く場所も多数ありますし。何よりこの富士山を仰ぎ見る自然豊かなところですから、子育てには本当に良い場所だと思っています。

対談場所

対談場所/富士錦酒造株式会社

対談のお相手
平野 達也さん - ひらの たつや –

1972年生まれ。
1995年立教大学社会学部観光学科を卒業し、森ビル観光株式会社(現 森トラスト・ホテル&リゾーツ株式会社)に入社。
1998年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科入学。
エコツーリズムを研究し、2000年富士宮市に本校のあるホールアース自然学校に入社。
2011年には農業生産法人・株式会社ホールアース農場を設立し、現在は有機栽培のじゃがいもや人参・牛蒡などおよそ50品目の作物を手掛け、食べに行ける農場として「農カフェ」やキッチンカーも運営し人気を呼んでいる。