対談

対談~富士宮の独自文化と魅力を再考する~ガラパゴスだからこその価値を見直しながら NPO法人まちづくりトップランナーふじのみや本舗 代表理事・富士宮やきそば学会 代表 渡辺孝秀×清信一

2010年に本誌でも対談した「富士宮やきそば学会」会長の渡辺英彦さんが昨年末多くの人に惜しまれながら逝去し、その遺志を継いで富士宮市の街づくりに尽力している渡辺孝秀代表。元富士宮市役所の職員で、行政マンながら非常に柔軟な発想を持つ渡辺さんと清社長が、地元・富士宮の地域文化や未来について熱く語り合った。

清:
渡辺さんは、日本酒はお好きですか?

渡辺:
はい、大好きです。
晩酌も毎日してますが、陽気やおかずによってビールやワインにすることもあります。

でも、今はサンマとかを焼いてくれれば、やっぱり日本酒ですよ(笑)。
富士錦さんのお酒も大好きで、昔から純米酒をよく飲んでいますよ。

清:
ありがとうございます!

渡辺:
昔マンガの『夏子の酒』を読んだんですが、あれで日本酒の知識をかなり得ました(笑)。

静岡県のお酒って、酵母とか、新しい酒米の誉富士とか、開発に県が関わっているので、
元行政マンとしても関心があります。

清:
本当にお詳しいですね。
お酒だけでなく、地域振興という意味でも行政が果たす役割というのは大きいですか?

渡辺:
すごく大きいと感じています。
20年ほど前の話ですが富士宮市は日本で最初に住宅用太陽光発電の助成金を出したんですね。
私はその担当でした。

当時は一般家庭でも設置費約800万円ほどになりまして、その半分を補助したのですが、かなり思い切った政策でした。

こうした先駆けとかオンリーワンになるとメディアが注目してくれるので、すごく市のアピールができましたし、普及の促進にもつながりました。

清:
他がやっていないことを先がけてやるというのは富士宮やきそばにも共通しますね。

渡辺:
そうです。
メディアに注目されれば、お金をかけずにPRができますから(笑)。

焼きそばに関しても私もやきそば学会の誕生に関わっていましたが、最初は『焼きそばなんかで街おこしができるわけない、ふざけている』と周りから怒られました(笑)。

でも、経済効果がすごく大きかったのはもちろんですし、ああいう手法もあるんだということを多くの人にわかっていただいたことが大きかったと思います。

清:
注目を集めるためには、行政だからといって手堅くやるばかりでなく、思い切ったこともやらなければいけないと?

渡辺:
そう思います。
あと行政がコントロールしようとしすぎないことも大事ですよね。

焼きそばが大きく注目され始めたころ、今度は市議会で『やきそば学会に助成金を出したら』という声が出たのですが、『助成金をもらわないから足かせがなくて自由にできると思います』と答弁した記憶があります。

清:
それはうちの蔵開きと同じですね。
以前に町から『助成金をもらえば?』と言われたのですが、当時、町(の財政)が苦しいのもわかっていましたし、この地域に人が入ってきてもらえるように、うちなりのスタイルで盛り上げますよと。
でも、何かあったときにはお金以外の部分で助けてくださいねという話をしました。

渡辺:
素晴らしいと思います。
そのへんは渡辺英彦さんの考え方と同じですね。

清:
富士宮の人の気質として、思い切ったことをする傾向が昔からあるのでしょうか?

渡辺:
どうでしょう…。
歴史的によく言われるのは、東海道筋から引っ込んでいてなかなか交流が生まれないので、この街でひとつの文化圏になっているということですかね。
だから、よその人が入って来にくいとか保守的な部分もある反面、今はそれじゃいけないという反発もある気がします。

焼きそばの話も、市外から嫁に来た主婦とかが他と違うと言い始めて、それで地元の人も再認識しました。

清:
街道筋から少し外れた土地だからこそ、独自のオリジナリティある文化が生まれやすいということ…

渡辺:
そうそう、ガラパゴス諸島と同じですよね!
メディアの人たちが富士宮やきそばの取材に来ると、みんな『知られざる焼きそば王国』だと驚いてました。

路地裏とかに焼きそばの店が160軒もあって、休日だとみんなが焼きそばとお酒で昼間からガンガン盛り上がっている。
話を聞くと、ソフトボールやママさんバレーをやっているグループだったりするんですよ。
バーベキュー感覚なんですかね。

そういう楽しみ方も含めて、ガラパゴス的な独自の文化だと思います。

清:
だからこそ他の地域の人たちに魅力的に映るんでしょうね。
そういう意味では、うちもガラパゴス的かもしれません。

渡辺:
そう思いますよ。
富士錦も柚野の里から動くことなく、富士山の水を使って300年以上信念を持ってお酒を造り続けている。

あの土地でなければできないお酒だからこそ、海外の方にも喜ばれるわけですよね。

清:
そうです。
富士山の伏流水で醸造していると言うと、海外の人は特に関心を持ってくれますね。
どこの国の人も、静岡は知らなくても富士山は知ってますから。

そういう独自の文化を大切にして、次代の人たちに継承していくというのも大切なことです。

渡辺:
私が今やろうと思っているのも、まさにそこです。
幸いなことに、富士宮を盛り上げていきたいと思ってくれている若い人がたくさんいるので、私たちが先頭を切ってというよりも、これまで渡辺英彦会長から受け継いだノウハウとか経験を若い人たちにバトンタッチしていくことが私の使命かなと。

清:
大事な役割ですね。
市民の方々も、海外からのお客さんをすごく温かくもてなすとか、意識が変わってきていると感じます。

渡辺:
たしかに!
それと私は、人が多く来てくれるには、まずそこに住む人が自分の街を楽しまないと始まらないと思っています。

清:
同感です。
うちの蔵開きでも、地元の人たちが盛り上がっている中によそから来た方や海外の方が入って一緒に楽しんでいますから(笑)。

富士宮やきそばが盛り上がったのも、多くの人たちの『地元のために何かしたい』という想いが根底にあって、自分たちも楽しみながらやっていたことが大きなエネルギーになっていたと思います。

そういう“想い”が今もつながっているという話を聞くと、未来は明るいと感じます。

渡辺:
私自身も、その想いをつなげていく手助けができたらいいなと思っています。

清:
すごくやりがいのあるお仕事ですね。
今日は本当にありがとうございました。

プロフィール
NPO法人まちづくりトップランナーふじのみや本舗 代表理事
富士宮やきそば学会 代表
渡辺孝秀 - わたなべ たかひで –
1952年、静岡県富士宮市生まれ。1977年に明治大学を卒業して富士宮市役所に入所。企画調整課時代に「住宅用太陽光発電の助成制度」の事業を担当し、その後、市民まちづくりワークショップを始め、2000年の「富士宮やきそば学会」の結成にも尽力。市民活動と行政の連携を図るキーマンとして活躍した。その後フードバレー推進室長、企画部長も務めて2013年に定年退職。現在は、2018年12月に亡くなった渡辺英彦会長の遺志を継いで、NPO法人と学会の代表を務めている。