対談

対談~一期一会の美と味を求めて 陶芸家 今野登志夫 社長 清信一

34年前に柚野の里に窯を開き、数々の賞を受賞すると共に、自由な発想で人の心を打つ作品を世に問い続けている陶芸家・今野登志夫さん。和食がユネスコ無形文化遺産に登録された今、器や日本酒も含めた和食文化全体を見つめ直すべく、満を持して清信一社長との対談をお願いした。

二人:
乾杯!

清:
この手作りベーコン、おいしいです!
今野さんは料理もお好きなんですか?

今野:
元々料理は好きなんですが、知り合いの肉屋で良い豚肉に出会って、 これをベーコンにしたらうまそうだなと思って燻製をやり始めたんです。

今日は和食の話と聞いていたから、刺身かなと思ったんですけど、良い魚が手に入らなくてね(笑)

清:
いえいえ、ここまで用意していただいて本当に恐縮です。

それに、ベーコンも今野さんの器とよく合っていますね。
昨年末に『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、こうした器なども含めて食文化全体として認められたんだと思うんですよ。

今野:
日本ほど食べ物が豊かで、バリエーションが豊富で、何でも上手に作る国は他にないと思います。
和食に限らず何でもおいしいですし、食文化は本当に豊かですね。

僕が最初に富士錦のお酒を飲んだ時は『あ、麹の香りがする。懐かしいな』と思ったんですよ。
吟醸とか高級志向のお酒だけじゃなくて、純米酒とかしぼりたて原酒とか、僕らが日常的に飲んでいるお酒も、 すごくこだわって作っているのがうれしいですね。

清:
ありがとうございます!
懐かしいと言われるお酒であり続けたいという思いは、すごくありますね。

今野:
ただ、僕はそういう路線で生き残っていくのかなと思っていたら、だんだん今風の良い酒になってきちゃって(笑)

今は有名になって、『あんたの所は富士錦の側だよね』ってよく言われますよ。

清:
それは『蔵開き』の影響が大きいですかね(笑)
お酒に関しては、やはり新しい血が入ると、時代の要請もあっていろいろ変わってきますね。

新しいことや邪道と言われていたことに挑戦して、今までなかったもの生み出したりして。
でも、いずれはあるべきところに落ち着いてくると思いますし、うちも今はそういう状況になっていると思います。

今野:
食事の場合、最初に飲み食いした時にすごくおいしいなと思うと、次までに記憶の中でおいしさが増幅しているんですよ。
だから、どうしても期待値のほうが大きくなって、2回目は『アレっ?』ってなる(笑)

清:
それは私自身も経験があります(笑)

今野:
焼き物にもそういう面があって、僕の作品を買って気に入ってくれた人が、次にまた欲しいと言ってくれる場合がよくあるんですが、そういう時はかなり覚悟して仕事を受けます。

前よりも良いものを作らないといけないですから。
お酒もふくらんだ期待値に応えないといけないから大変でしょうね。

清:
そうなんです。
そこが毎年大変なところで、価格帯に関係なくどのお酒も質を上げていかなければいけません。
今野さんが昔のお酒とだんだん違ってきているとおっしゃいましたが、それはいい意味で事実ですね。

もちろん、生き物(酵母)の力を借りた仕事ですから、100点満点というのはまずないんですが、また次頑張ろうということで、少しずつ進化していくというのはあると思います。

その意味では、和食のように日本は日本の道を行くんだというところを突き詰めていくことが日本全体としても大事なんじゃないかなと。
和食が世界で認められたというのは、まさに象徴的なことじゃないかなと思います。

今野:
そうですね。
僕の仕事でも、無茶やいろいろ試行錯誤している時代は、まだ先が見えてないんですよ。
でも、ある程度場数を踏んでくると、それをやっても無駄だというのがわかってくるんです。

土ひとつにしても、トライする以前に『あ、これはダメだ』と。
だから材料にもすごくこだわるようになってきて、求めるものが容易に手に入らないので、逆に苦しくなってきます。
わかればわかるほど追い詰められてくるんですよ(笑)

清:
非常によくわかります。
それは私たちもまったく同じで、だから私は冬にすごく痩せるんですよ(笑)

とにかく今進んでいる道を突き詰めたい、理想に限りなく近づきたいという想いで
一所懸命やっているんですけど、そこに辿り着くためには、ゴルフでいえばパターを変えてみたり、サンドウェッジのロフトを少し変えてみたり、外からは見えないさまざまな工夫やトライをしているので、同じことをやっていても、細かい部分の革新というのはつねに続いています。
今野:
たしかにそれはありますね。
僕はわりとバラエティに富んだものを作るんですが、それぞれの中に私がいなければイヤなんです。

その意味では、40年以上作ってきて最近思うのは、目の前の土に対して自分が素直に反応していけば、私のものになるということ。

以前はああでもないこうでもないと、ねじ伏せるような感じで作っていたんですけど、最近は素直に作れるようになってきました。

清:
今後さらに楽しみになってきましたね。

お酒を造るにも経験や感覚がすごく大事で、麹の様子を見て、香りをかいだり食べてみたりしながら、こういう酒になりそうだなと勘を働かせて、もう少しこうしたいという微調整をして、目的のところへピンポイントで狙っていくんです。

それは感覚だから、何度も何度も失敗を経験しながら会得するものです。

今野:
ピンポイントという目標を立てられるのは、僕から見たらすごいなと思います。

陶芸って偶然がけっこうあるんですよ。
僕はわりと計算するほうですけど、その偶然に期待している部分もあります。

こうやろうと思った時に空気とか微妙な影響で違った色や結果が出て、それが良かったという場合もありますから。

ただ、フォルムとか全体から来る匂いについては(自分の胸に手を当てて)この中にあると思っています。

清:
お酒の場合、ピンポイントを狙うんですけど、だいたい少し外れてしまいます。

今野:
どちらも機械で作っているものではないし、コントロールしきれない部分はどうしてもありますよね。

清:
逆にそこがおもしろいんですけどね。
和食の世界では、お酒も食器も料理の引き立て役ですし、テーブルを彩る大事なアイテムで、その中においしさがギュッと詰まっていて、すごく奥の深い食事だと思うんですよ。

それに、日常的な食事や質素なものの中にも美があるというのが日本らしいところですし、日本の風土にも合っていますよ。

今野:
そうですね。
日本には四季があって、季節ごとの楽しみがあるのも大きいです。
陶芸の材料になる土も含めて、すべて自然から与えられたものだと思います。

清:
今までの話を強引にまとめてしまうと、食事もお酒も器も、毎回同じということはありえないし、本当に一期一会ですね。

今野:
それはあります。
ただ、この対談も無理にまとめる必要はないんじゃないですか(笑)
無理に答えを出す必要もないしね。

清:
そうか…。そうですね。

今野:
たとえば、今こうなんだと思っていても、少し時間が経つとどんどん覆ってきますし、勉強すればするほど覆りますよ。

清:
それは私も毎年実感しています。
今日は貴重なお話が聞けて、面白かったです。
本当にありがとうございました。

今野:
こちらこそありがとうございました。

プロフィール
陶芸家 今野 登志夫
昭和26年、神奈川県横浜市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、瀬戸の森脇文直、加藤春鼎氏に師事して才能を開花させ、昭和55年に独立して静岡県富士郡芝川町(現・富士宮市)―富士錦酒造と同じ柚野の里に築窯。以来、毎年さまざまな工芸展で賞を受け、個展も多数開催。観賞用の陶芸としてだけでなく、多くの料亭でも和食の器として実用に供されている。