対談

対談~循環型社会への想いに共鳴して~酒粕がつないだ酒地元に根ざす同志の縁

1990年に富士宮市でゼロから富士山岡村牧場を立ち上げ、「岡村牛」という地域ブランドにまで育て上げた岡村千代次代表。昨年からその岡村牧場と富士錦酒造が酒粕を活用したコラボレーションを始め、「岡村牛・富士錦バージョン」として大好評を得た。今回はその背景を軸に、SDGsにもつながる地元や未来への想いを両社長が語り合った。

清:
この対談では恒例の質問になっていますが、岡村さんは日本酒がお好きですか?

岡村:
大好きです(笑)。毎日日本酒を飲んでいますし、富士錦もよくいただいてます。

清:
ありがとうございます(笑)。
日本酒のことをよくご存じだからこそ、牛の肥育期間に酒粕を投与してみたら肉質に非常に良い影響が出たという静岡県畜産技術研究所の研究成果も理解しやすかったんでしょうね。

岡村:
そうですね。うちはこれまで牛のお腹の調子を整えるために自然の食材を工夫しながら添加してきましたが、その意味でも素晴らしい発酵食品である酒粕は良さそうだなと。
それで畜産技術研究所の所長さんから地元の酒蔵と組んで酒粕を肉牛に食べさせてもらえないかという話を聞いた時に二つ返事でいいですよと。

ただ、組むのは富士錦さんにしてほしいと条件をつけさせてもらいました。清さんとは名刺交換したぐらいで深く話したことはなかったんですが、お酒がすごく美味しいですし、会社の姿勢もきちんとしていて組むなら富士錦さんしかないと思ったんです。

清:
本当にうれしいお話でした。
実際にうちの酒粕を食べさせた牛のお肉を試験販売してみたら本当に評判が良くて、僕も食べてみたら肉質がとても柔らかくて口どけが良くて、旨みも濃厚で美味しくて、こんな酒粕の生かし方があるんだなと感動しました。

もちろん元々岡村牛が非常に美味しいというのが大きいと思いますが、岡村さんはどんなこだわりを持って牛を育てているんですか?

岡村:
こだわりとか特別なことはないですよ。
毎日当たり前のことを当たり前に続けているだけです。僕は若い頃から自分の農場を持つのが夢で、それが1990年にこの朝霧高原でようやく叶ったんです(当時35歳)。

ただ、それまで養豚場に勤めてそれなりの成果は出していたんですが、牛を育てるのは初めてで。毎朝体温を測ってしつこいぐらい牛を観察して、いろいろ試行錯誤しながらやってきたんですが、結局は牛が本来持っている能力が普通に育っていくようにお手伝いするのが僕らの仕事だなと。

主役は僕らではなく、あくまで牛たちで、彼らがストレスなく健康に生活できる環境を整えることが大事だと思っています。
元々草食動物なのに肥育機は農耕飼料とかで無理に太らせるわけですから、どうしても内臓に負担がかかってきますよね。
だから、内臓にしっかりと良い働きをしてもらえるように毎日気を配っています。

清:
人間の世界でも腸活とか腸の健康に注目が集まっていますが、岡村牧場の牛たちは腸がとても健康なんでしょうね。
内臓にもまったく臭みがないですから。
酒造りも、お米を材料にして酵母という生き物に良い働きをしてもらうことで美味しい酒ができるので、岡村さんの考え方にはすごく共感できます。

岡村:
ですね。似ているという意味では、富士錦さんは酒粕を有効に活用されてますが、うちも牛の糞はすべて堆肥化して他の農場で活用してもらっています。
けっこう費用や手間がかかって経営的にはマイナスですが、そこは生産者の義務というか、ちゃんとやっていないと、いずれ足下をすくわれそうで。

清:
岡村牧場は牛舎に近づいても臭いがしなくていつも感心するんですが、排泄物の処理を完璧にやっているからなんですね。
地元の乳牛と肉牛をかけ合わせた『ハイブリッド生産』をしているのも独自の取り組みですね。

岡村:
朝霧高原は静岡県内では一番の酪農地帯で、ホルスタイン種(乳牛)というのは子どもを産むことによって牛乳を出すわけです。そうして生まれた子牛を育てることは、この地区で生まれた資源を大事にすることにもなります。
たしかに黒毛和牛は美味しいですが、僕はこの土地だからこそできるやり方で勝負したいなと。
そのほうが自然だし、賢いと思ったんですよ。

結果的に、くどさがなくてたくさん食べられる、価格的にも多くの人に美味しく食べてもらえる肉が提供できているのかなと思っています。
僕は芸術品のような高級肉を作りたいとは考えてないので

清:
今のお話もすごく共感できます。私たちも地元で生産された米を使う比率を増やせるように毎年努力していますし、いちばんベーシックな商品、どなたにも手を出していただきやすい価格の『純米酒』がより美味しくなるように日々研鑽を続けています。

岡村:
そう言っていただけると一緒にやれて本当に良かったなと思います。
酒粕も堆肥もそうですが、いろんなものが地域の中で循環できるというのは、私たちが共通して目指すところのようですね。

今はSDGs(エスディージーズ)という言葉をよく聞きますが、岡村さんは最初からそういう考え方だったわけで、そこがすごいなと思います。

清:
いえいえ。うちの直売所の常連のお客様が父の日に富士錦バージョンを買って家族で食べてくれたそうですが、『すごく美味しくて良い記念になった』と。
そういう声をたくさん聞けるように頑張ってるだけですよ。

岡村:
いい話ですね。お酒も、大切な人と楽しい時間を過ごすとか、人と人との絆を深めるという意味でもすごく役立つものだと思います。
それが美味しい肉や酒であれば、思い出がより深く残りますよね。私たちもそういう役割を果たしたいとつねに思っています。
今日は本当にありがとうございました。

清:
ありがとうございました。
というか、引き続きよろしくお願いします(笑)

プロフィール
(株)富士山岡村牧場 代表取締役
岡村千代次 - おかむら ちよじ –
1955年、滋賀県近江八幡市生まれ。実家は農家ではなかったが将来の就農を目指して東京農業大学に進学。卒業後は青果市場や養豚場などで経験と実績を重ね、1990年に静岡県富士宮市で廃業する牧場を引き継ぐ形で「富士山岡村牧場」を創業。独学で乳牛と肉牛のハイブリッド生産を確立し、2003年にはBSE問題の渦中で現在の用地を取得して移転。苦労を重ねながら多くの直売顧客を持つブランド牛の座を築き上げてきた。