蔵元便り 柚野の里から

2001年06月

黒い革ジャン

富士錦の田植えが無事に終わったその日の午後、あるグループの人たちが集まって、今年富士錦が造った純米酒を利き酒し、味のチェックをされました。
今年、富士錦の純米酒は、蔵から半径20キロ以内の田んぼで 作られた米と、酒米作りに非常に熱を入れ、有機農法にこだわる 人たちの米を利用しました。
精米歩合も高精米にし、良質な原料をさらに上質なものとして醸造しました。
このグループは、日本酒のおいしさとその造りの巧みを十分に理解し、大手酒造メーカーでも、有名ブランドメーカーでもない、地方の地道で誠意あるおいしい酒を普及させようと心を尽くしてくれる、そんな人たちです。
今年もそんなお酒を愛する方々のお眼鏡にかなう酒として選ばれ、蔵元としてホッと一息いたしました。
そんな時、このグループの長老が、十数年前になる富士錦との出会いを話してくれました。
「三増酒と呼ばれる添加物で増量された日本酒が市場を席巻していたころ、これじゃあいけないと、取引のあるいくつかの蔵元に「純米酒を売りたいので造ってほしい・・・」と相談してみたんだが、答えはすべてノー。富士錦は取引が無いからなぁ・・・と思いながら電話をかけてみたら、あんたたちの社長、その日の午後にスッとんできて、即答でイエスなんだよなぁ・・・

確かその時はもう冬で、その年の酒造りが始まっていたんじゃぁないかなぁ・・・
黒い革ジャン着て、それが少しヨレていてさあ・・・今でも忘れられないよ。
でもあの時代に純米酒を造るという決断はなかなか出来ないよ。」と少し持ち上げてくれました。
そんな出会いに始まって、今に続くこの関係。
地酒屋の喜びは、こんな心と心の出会いなのです。
米と技術と誠意で造られた富士錦の酒。どうぞお試しください。