蔵元便り 柚野の里から

2001年10月

真物(ほんもの)

 刀剣や書が鑑定の専門家を育てる時の鉄則は、まず真物(ほんもの)ばかりを見せて、真物によく慣れてから偽者を見せるという教育方法をとることだそうです。
目利きとして「イイ仕事してますねぇ~」と言うには、まず良いものを知ること、これが肝心と言うことでしょうか。
この、「よいものから」ということは、日本酒の「きき酒師」ワインで言うところの「ソムリエ」と呼ばれる人たちも同じ道を通り、酒(ワイン)の良し悪しの判断基準を養っていくそうです。
きき酒を生業としている方に限らず、お酒をたしなむ多くの方々が、「よりいっそうお酒を楽しむ」ためには、日本各地にある千差万別のお酒を味わってみることがよろしいのではないでしょうか。
「お酒を呑む人」に限らず、呑まない人も「ちょっとでもお酒に興味がある・・・」のなら、旅行先で地酒を買ってみる、さまざまな蔵元のお酒を「カタログ」や「インターネット」で取り寄せてみる、居酒屋でビールではなく地酒を頼んでみる・・・そんなこんなで旅行の目的が蔵元巡りになり、最後に自分の舌にあう1~2銘柄のお酒が決まる。そんな人が世の中少なくありません。
当蔵にも、「いろいろ酒を飲んだけど、私には富士錦のしぼりたてが一番!!!自分に舌にも体にもあうみたいだ」と、長い航海の末、錨はここにおろしたよとおっしゃるお客様がいらっしゃいます。
蔵元として、何よりうれしい一言です。
そんな中、今年の秋の清酒の新製品が出揃いました。
大手メーカーは「増量低価格路線」に拍車がかかった感が否めません。
この路線・・・日本酒としての未来って見えてこない気がするのですが・・・。
「原料が米だけ」の酒がなぜ純米酒とうたえないのはどうしてなのかご存知ですか?

現在、伝統ある日本酒の製造技術を用い、世界に冠たる緻密で繊細な酒造りを守っているのは、紛れもない「地酒」と呼ばれる地方の志ある中小の酒蔵だけです。
みなさん、旅行のたびにその土地の「地酒」を味わい、 皆さんの「舌の錨」をおろすことができる銘柄の酒を見つけてください。
当然、「富士錦の酒」もお忘れなく・・・