蔵元便り 柚野の里から

2001年12月

日本酒の歴史

 富士錦の和釜から湯気が昇り、見上げる富士山は雪景色。
酒母がたち、麹室を垣根越しに見れば、いつもの「栗香」(蒸したお米に麹菌を植え付けるときに生じる、独特の香り)が漂い、蔵内ももろみの香りに一段と活気づいて参りました。
ところで、日本酒の歴史を紐解くと、過去の日本の経済的変動や社会変革と密接に関連しているようです。
誕生期は、有名な「くちかみ酒」。日本の大改革として日本列島に稲作文化が根付き、日本酒は収穫を祈る特別な日の、神と人を結びつける特別な飲み物として扱われていたようです。
第二期は、貨幣経済になった鎌倉・室町時代。酒造り技術が発達し、これまでの自給生産から販売目的の生産が始り、飲み手も、貴族から武士・庶民となって、街にお酒が出回るようになったようです。
第三期は、江戸幕府開幕により、江戸という大都市が急速に形成された時代。
江戸前期で四十万、中期には百万人都市となった江戸は、その実に七割が男性だったようです。というのも、参勤交代制という武士の単身赴任制度と、急速な人口増加のため、家屋敷を建てる職人・人足たちが人口の大多数をしめていたからだそうです。
この働く男ばかりの社会は「居酒屋」を生み出しました。自炊嫌いに、おかずからそば・うどんを売る「煮売り屋」が店を構え、「酒めし」と看板を掲げ、赤提灯を灯して宣伝し、大繁盛だったようです。
この時代には、すでに酒造業者は免許制に、また酒造業者・卸売・小売・消費者という現在の流通体系の基礎も整ったといいます。

「失われた十年」から今年にかけての日本経済の大きな変化は、日本酒に第四の変革期をもたらすのでしょうか?
米をつくり、酒を醸して300年。「例年どおり、いつものように」と、当たり前のように思っていることのひとつひとつに感謝しなくてはと、改めて思う冬の始まり。
富士錦の蔵では、今年もふくいくとした日本酒が息づいています。