蔵元便り 柚野の里から

2002年02月

職人魂

 早朝マイナス3℃まで冷え込んだ寒い日に、ふと見下ろすと、庭の隅にヒヤシンスの芽が顔を覗かせておりました。
このヒヤシンスの芽。今は陽だまりの中にいても、今朝の霜はこの上にも降り、霜柱が全体を覆うような寒いところに立っていたんだなぁと思うと、スッと上を向いて伸びる新芽のたくましさを思わずにはいられませんでした。
富士錦の蔵の中では、大吟醸の造りが始っています。
小さくみがかれた米粒を手で洗い、そして水に漬ける時間を計る声が、ここまで聞こえてきます。
よりおいしいお酒を造ることも求め、水を張ったザルの中にある米の表情を、中腰のまま息をひそめて虫眼鏡で見守る「畑福杜氏」の姿勢は、毎年変わることがありません。
この様子を垣間見ると、いつも「職人魂」という言葉が浮かび、心が引き締まります。
手を掛け心を注ぎ、それでいてこの仕事の厳しさはおくびにも出さず、的確に判断を下していく様は、ものつくりの日本の原点を見る思いさえいたします。
また、明治中期に建てられた富士錦の仕込み蔵には、無数の「蔵つき酵母」といわれる菌があり、その菌が富士錦のすっきりとした酒の味わいにも一役買っています。
古い蔵の良さというものでしょうか。
また、今では少数派となってしまいましたが、和釜で丁寧に米を蒸し、蔵付き酵母の恩恵を受け、現在の最先端の技術を持ちえる「畑福杜氏」の丁寧な酒造りを合わせれば、日々搾り出される富士錦の酒は、これぞ「極上の日本酒」と胸を張って言えるものです。

この冬初の大吟醸の利き酒をした蔵元が「なんとかこの酒のおいしさ、すごさを、皆様に味わって欲しい」と申しておりました。
実は、ただいまその実現を掛けて、企画奔走中。もう少々お待ちください・・・。
シールを張り替えれば、外国産の牛肉が和牛になってしまうこのご時世。
確かな技術とゆたかな愛情で造られた本物を選ぶためには、自分自身の舌を鍛えなければならない、今はそんな時代なのです。