蔵元便り 柚野の里から

2002年05月

大切な水

 田に水が張られた途端、蛙が大合唱を始め、まだ薄ら寒いこのところの陽気も、まるで初夏のような風情をかもし出している「柚野の里」です。
つい最近のこと、富士錦のすぐ隣りの地区から縄文時代の集落跡(芝川窪A)が発見され、うるさいくらいの蛙の声を聞きながら「いったい一万年以上前はどんな声がこだましていたのだろう・・・」と遥か昔に思いを馳せる楽しみが増えています。
ご存知の通り「柚野の里」は富士山の麓にあり、仰ぎ見るかのごとくそそり立つ富士を目の当たりにすることができます。 先日発見された縄文集落跡も富士山を崇めるかのような位置に住居跡があるそうで、どうも、信仰の対象としての富士山が縄文時代にもあったように思われます。
昔も今もここに住む人々の心の礎には「富士山」があるのだと確信できます。
さて、話しは変わりますが、「水」の特集を扱ったある新聞記事で「きれいな水」から連想する企業は何ですか?とアンケートを実施したところ「造り酒屋」という答えが第1位だったという記事を読みました。
その理由はというと「昔からあり、水がきれいでないとおいしいお酒は造れないから」という回答が多く寄せられたとの事、まさにその通り!「水」は造り酒屋の命です。
毎年、富士錦でも湧き水を水質検査に出し、その成分の推移に注意を払っています。
いまのところ、ほんの僅かの数値の変化があったものの、ほぼ一定した上質の水質に変わりはありません。
以前、ちょっと数値が変わったので気になって電話で尋ねたところ、受話器の向こうから「そんな僅かの差、何も気にすることはない。今時こんなきれいな水、日本のどこを探してもそんなにたくさんはないですよ。」と、かえって太鼓判を押され、それ以来、「柚野の湧き水」は富士錦の密かな「自信と誇り」になっています。
また、試飲会などに出向くときは、必ずこの湧き水を汲んでビンに詰め持参しています。
まず水を飲んでいただき、お客様に水を味わっていただきます。 そうすると、必ずお酒も試飲していただけます。
「こんな美味い水で造ったお酒はどんな味?」という気持ちになるようです。

現在、流通再編・中小メーカー淘汰の時代と言われて久しくなりました。
私たちのような中小の造り酒屋にとって長期的にもっとも重要なことは、この水をどうやって大切に次の世代につなげるかということに尽きるような気がします。