蔵元便り 柚野の里から

2002年07月

季節の輝き

 30度を越す真夏日と、冷たい梅雨空が交互に訪れて、柚野の里の稲も伸びたものやらどうやらと、戸惑っているような風情です。
傘をさして歩くと、ひときわ目を引くのは花菖蒲。ビロードのような花びらに、雨の滴がはじかれてくぼみでちょこんと落ち着く様子は、目にも楽しい美しさです。
また、淡く黄色に熟した梅が、葉に見え隠れしながら雨にぬれると、途端に瑞々しく見えるから不思議です。
旬のものだけが持つことのできる「季節の輝き」というものでしょうか?
先日、うれしい来客がありました。
今月挙式の女性が、富士錦を引き出物にと選ばれてきたのです。遠慮がちに入って来れれながら、ハキハキと来訪の意を述べ、てきぱきと決めていかれる様子は、わざわざ蔵元までいらっしゃる行動力と明るさに溢れていました。
「北海道からお客様がいらっしゃったりするから、富士山の湧き水を使って仕込む蔵元のおいしい地酒を引き出物にして、喜んでもらいたいんです。料理に使うようなお酒はつけたくないんです。」
そのように話されていきました。
そうです、引き出物のカタログに掲載されていなくとも、地元を誇るおいしいものや工芸品はまだまだいっぱいあるのです。
こんなに豊かな土地柄ですもの。晴れの舞台のお手伝いができることを誇らしく思いながら、聡明な彼女の幸せを願わすにいられません。
今、大量生産される食料品の弊害が事件となって新聞紙上を賑わせています。
口にするものは法律を守ってさえいればよいというものではありません。
地元に根差し、稲を育て米を作り、そして、富士山の湧き水で酒を仕込む富士錦300年の伝統技術。小回りの利く配達で地元の流通は、こまめに労を厭わず・・・。

新酒の福々しい香りを、富士錦の蔵から皆様にお届けしようと、社員一同驀進しております。
全国の、いや世界の味がいながらにして味わえる今日の豊かな日本で、本当においしいものは、きっと身近にある地元のもの・・・そんな気がしてなりません。