蔵元便り 柚野の里から

2002年02月

富士錦の酒は人柄そのまま

 富士山に積もった雪が、強い北風にあおられて雪雲となって飛んでゆく景色が毎日のように見られ、真冬の寒さと美しさを柚野の里に醸しだしています。
現在、蔵の中では、「もろみ」が10数本造られており、酒造りの最盛期を迎えています。
真夜中、ようやく暖まった布団を抜け出し、真っ暗な底冷えのする酒蔵に薄暗い電灯を再び灯し、「もろみ」の様子を見る畑福杜氏の姿があります。
昼間の明るい日差しの中で、畑福杜氏と言葉を交わせば、杜氏の顔は睡眠不足を物語っており、それは、そのまま杜氏の職業意識の高さをあらわしています。
最も忙しく大変な時こそ手を抜かない、歯を食いしばって自分を抑え、酒造りに向かう姿。 「仕事」とはこういうものであると教えられる、酒造り最盛期の富士錦です。
そんな中、先日東京の問屋さんが、わざわざ当蔵を訪ねてくれました。
全国各地の優良地酒を専門に扱うことで、業界では名が知られている問屋さんの訪問です。
現在、富士錦の酒は、県内で生産高の9割5分が消費され、そのうち約6割が地元富士地区のみなさまに飲まれています。
完全に「地域密着型」です。
これは、地酒屋の看板を掲げる以上、地元のみなさまに愛されなくては意味がない、という蔵元の経営理念です。
地元の人が飲みたい酒を造る、それが地酒屋です。
「うちは地元で売る分しか作っていない田舎酒屋ですから・・・」という当方の言葉を、「いえいえ、地酒はそういう姿が基本なんです。」と返し、「富士錦という蔵元がどんな環境で、どのような姿勢で日本酒を醸し出しているのかこの目で見たくなり今日は参りました」とおっしゃいました。
富士山を望む山里でしかもその湧き水で酒を醸す富士錦の環境は、東京から見れば贅沢な想像以上の醸造地らしいのです。

景色を見ては何度も頷き、話も弾んで、互いに気持ちよくその日を終えました。
後日、「東京に持ち帰った富士錦の酒は、皆が認めたこと・富士錦の酒は人柄そのままの素朴な深みのある酒である」という葉書が舞い込み、しみじみと酒屋の幸せをかみしめているところです。