蔵元便り 柚野の里から

2003年03月

一億人の富士山

寒仕込みという言葉があるように、日本酒造りの風景はこの寒い時期を代表する冬の臨場感があります。
そのためか、この時期にさまざまな取材を受ける機会が増えます。
もちろんこの時期は、大吟醸をはじめとする酒造りの真っ最中で、夜中に何度か起きて、もろみの様子を見に行く杜氏は、それでなくとも気が張っています。

なぜ、夜中に何度も起きてもろみを見るかといえば、「タイミング」を待っているからなのです。
一番良い状態でお酒を搾ることが、おいしいお酒造りの秘訣のひとつ。そのタイミングを計るには、たとえ夜中であってもタンクのそばに寄り添っていなければわからないのです。
酒造りとはかくも緻密で繊細なものなのです。
先月、お隣の山梨県、山梨放送の「一億人の富士山」という番組の中で、富士錦を取り上げていただきました。
これはすばらしい番組になっており、取材の柱は、静岡県は実は現在全国的な酒どころであり、「静岡の地酒」として非常に人気が高いこと、その陰に全国屈指の「静岡酵母」の開発者がいたこと、また、静岡の蔵元たちに日本酒造りにかける並々ならぬ情熱が根付いていたこと、これら3つを縦軸に、富士山という静岡のシンボルを横軸に絡めて作られていました。
「どん底からの脱出・銘醸蔵を目指して」という少々ドラマティックな題字とともに始まったこの番組は、静岡県の戦後の酒造りの歴史を伝え、富士錦だけでなく県内のさまざまな蔵元が取材を受け、現在の酒造りへの情熱を蔵内の造りの風景とともに、素敵なナレーションで伝えていました。
そんな番組の中で心に残ったのは、「日本酒は大和魂です。」と語る杜氏の言葉と、蔵元の酒質向上に対する熱意の道程でした。

緻密で繊細な上質の酒、「日本酒」
それが大和魂です。
その味わいは無限に広がり、今も次々とその産声を上げています。