蔵元便り 柚野の里から

2005年05月

最近、思うこと

 シャクナゲが仄かなピンクの花を咲かせ、足元には紫色のムスカリが年ごとに株を増やして庭の隅を彩る中、その向こう岸には、すでに水を張られた田が続き、瞬く間に蛙が騒がしい時期がやってきました。
振り返れば、あっという間の酒造りの半年間でしたが、やはり、毎年山あり谷ありの酒造り。
全てを終えた杜氏達の表情は、清々しさそのものです。 そんな表情を見て私も晴れやかな気持ちで杜氏達を見送ったら、今度はホッとして熱を出してしまいました。 その横で、種籾を塩水にひたし、黙々と種籾を蒔く母がいて、やはりまだまだその背中には届きそうにありません。
ところで昨年に続き、今年も鑑評会で静岡県知事賞という大きな賞を頂戴し、二年前まではどちらかというと無冠の蔵だった富士錦は、今、大きな変化のただ中にいるといった表現があてはまるでしょうか。
酒造りの何を変えたわけでもなく、自分たちの舌を信じ富士錦の酒を求めつづけ、毎年愚直な程、真面目に酒を造り続けた結果、権威ある鑑評会からも評価していただけるようになり、本当にありがたいことです。
最近、ますます思うことは、私達日本酒の蔵元は、やはりお客様の 「ああ美味しい。 また飲んでもいいな。」と思える酒を造る、そこで勝負するしかないということです。

品質以外のところで勝負しても、結局長いスパンで見れば、残っていけません。そして、いつもの食卓が富士錦があることではなやかな気分になる。 そんな気持ちを醸し出せる様な酒を造り出す蔵が、やはりこれからの日本酒の蔵元ではないかと思います。
そんな蔵に一歩でも近づけるように、富士錦を醸し続けていきたいと思います。