蔵元便り 柚野の里から

2008年11月

包む優しさ

芝川沿いにコスモスが揺れ、手前の柿の木には折れんばかりの鈴なりの柿の実が赤く熟し、丘の向こうには雪を被った富士山が顔をのぞかせる、 まさに秋真っ直中の柚野の里です。

 スイッチを入れれば、株価下落のニュースが続き、食品の毒物混入事件も枚挙にいとまないこのご時世。あまりにも乱暴なニュースが続き、 外へ出て畑へ行ってみるとそこでは、9月に蒔いた秋植えの野菜達が、種から芽を出し、日ごとに大きくなっています。
そんな野菜を見ると、 ホッとするのは根っからの田舎育ちだからかもしれないが、そこには、揺るぎない自然の豊かさと育ち具合で手を入れる母の野菜作りへの知識と愛情がこもっています。もうすぐ入蔵を控え、蔵の台所準備も佳境を迎えています。
先週、岩手・花巻へ行き畑福杜氏達と顔合わせをしてきた社長が、「みんな明るくていいカンジだった・・・。良い顔合わせだった。」と、 嬉しそうに帰ってきました。これから半年を共に暮らし、酒造りに打ち込む杜氏達の明るい笑顔に、造りへの夢も広がりました。

その杜氏の口癖は”日本酒は大和魂”飲めば必ず口に出ます。日本酒のように、複雑な醗酵と繊細な醸造方法を辿るお酒は世界に類がありませんが、 それは、勤勉実直な日本人の特質が生み出した酒。手間暇を惜しまず、夜中に何度も起きてもろみの様子を見に行く畑福杜氏の醸す酒には、 飲む人を包み込むような優しさが流れています。
そして、酒造りの作法を、体にたたきこんでいる職人の揺るぎない仕事ぶりは自然とその後に 人がついてくる・・・。畑福杜氏はそんな人間です。
今年も自分の信じる酒造りをここ富士山の麓で始められる事に感謝しながら、明るく醸していきたいと願う酒造り直前の秋の日です。