蔵元便り 柚野の里から

2009年01月

感謝

「しぼりたて、出来た?今年のはどうだい?」と、一年振りの大きな明るい声が聞こえてきました。その声の主が、毎年仲間とこの酒を持って山に登り、初日の出を見ながら飲み明かすのが、元旦の恒例行事で一年の僕の一番の楽しみと嬉しそうに話してくださったのは、もう二昔前。
遠方から突然みえ、地元の少年野球の世話役を務められ、新年の行事で出す甘酒を作るのに粕が欲しいから寄ってみたと、いらっしゃったのがご縁です。
途中、何年かお見えにならず、心配していたら、昨年より復活。「実はさあ、ちょっと体調を崩してね。今年又この酒飲めると思うと、嬉しくってサア。」と、話したのがつい先日のようです。

じっくり蔵の空気を吸って少し話した後、「また来年!」と、手を振って行かれたその顔は、今年もやはりとても嬉しそうでした。「これが飲めなかった年は、つまんなかったなあ・・・。」と今年も、おっしゃっていました。

小さな里の酒蔵が、曲がりなりにも今年も慌ただしい年の瀬を迎えられるのは、富士錦を大切に思って下さるお客様があってこそ、と、改めて感謝にたえない年の瀬です。
世界中で「百年に一度」と呼ばれる不景気を連呼し、日本経済をリードしてきた業界が、「まさか」の坂を渡って、なんと赤字転落というニュースが日夜流れているこの年末。
その厳しい表情の経営者達の顔を見るたび、世界経済の株価・為替・円高のレート次第で、巨万の富も紙くずのようになる、危うさを実感し、実態とは何かを考えさせられます。
私達富士錦に出来ることはただ一つ。おいしい日本酒を造り、皆様に楽しい時間を過ごして頂くことを願う事のみです。ただ、それだけを想い、今年も酒造りに精進します。
私共の日本酒が皆様の人生の潤滑油として、飲んでいただいた人に、「また明日がんばろうかな」と思っていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
本年も、一年間大変お世話になりました。どうぞ、良い一年をお迎えいただくよう、心よりお祈り申し上げます。