蔵元便り 柚野の里から

2013年11月

2013年11月号

台風26号が田んぼに残った稲わらを巻き上げて去り、途端に気温が下がり始めました。まるで夏から冬へ、急転直下のような気温の変化ですが、お元気でお過ごしですか?

続けて今日は、台風27号.28号の大雨が予測されています。大過なく、無事通過してくれることを祈るばかりです。そんな天気を尻目に、富士錦では、酒造りに使う米が入荷し、蔵人が今年の仕込み仕事の準備を始めました。先日、蔵人が遠く岩手より入蔵し、富士錦では一足早い冬が始動し、蔵の中は途端に活気づいています。
そんな折、山仕事を専門にされた方と一緒に山を歩く機会がありました。その方、御年83歳。かつて製紙会社に勤め、紙の原料となる山の管理一筋の道を歩まれた方でした。小柄な体とは裏腹に、道なき山を歩く姿はさすが山を知り尽くしたカンジ。地図を片手に歩いては、じっと上を見て、しばらくすると後ろを振り返り…を繰り返し、初めて入る山でも草をかき分け境界を探し当て、迷い無く目的地へ。
よく聞けば植林をした山には、人の手相と同様に「林相(りんそう)」があるとの事。同じように植林しても、植えた人によって少しずつ相は違うものなんだ、と丁寧に教えてくれました。まるで木と会話しながら集中して歩く姿は、とても年を感じさせない、本当に見事な姿でした。
その道一筋に仕事を極める職人が、日本にはたくさんいらっしゃいます。このようなその道のプロが、日本を支えてきたのだと、改めて思いました。
この方、日本酒が大好きで、嬉しい事に毎日晩酌を欠かさないそうです。

これから日本酒の最も美味しい季節です。天気の心配は程々に、どうぞ四季ある国に住む豊かさを存分にお楽しみください。