蔵元便り 柚野の里から

2014年12月

次の百年へ向けて

澄み渡る夜明けの空に、真っ白な富士山が更に白さを増し、その美しさに暫し目を奪われる季節になりました。シンと静まり返った薄暗い蔵の中では、体から湯気を上げて黙々と仕事をする蔵人の息づかいが白く煙ります。
時折掛かる声が、蔵の端まで響き渡り、米を蒸す蒸気が、空に上がった瞬間に凍りつきそうな朝の風景です。富士錦は、そんな朝をおよそ三百年も繰り返し、今日もお酒を醸し続けています。

「富士に錦なり」

大正初期に「憲政の神様」こと尾崎行雄(号は愕堂(がくどう))氏が当蔵元を訪れ、夕日を受けて錦色に輝く富士山を愛でて発した言葉です。
その年から「富士錦」の銘を刻んで百年を迎えた平成26年、次の新しい百年へ向けてスタートを切りました。百年前の彼らは、百年後の今の世の中を想像できたでしょうか。


自動車が行き交い、電気が家庭に行き渡り、買い物も便利、インターネットが普及し、新しいビジネスが台頭している…。きっと想像できなかったでしょう。でもきっと、富士錦では昔と変わらぬ風景を脈々と続けている事を知れば、逆にもっと驚いたかもしれません。
百年という歳月は一代では刻む事はできません。数世代に渡って技術や精神を伝え、苦しい時代にも耐えてそれを守り続けなければ歴史は作っていかれません。この積み重ねが、今日の富士錦を作り上げたと言えるでしょう。
今年を振り返ると、一年間の集大成として12月に「純米酒大賞」で最高金賞を受賞し、酒銘誕生百年に花を添える事が出来た事が、特筆すべき事でした。誠実に夢を持って仕事と向き合ったスタッフ一同の努力が評価され、大きな弾みとなりました。

来年は更に上を目指し、高い目標を持って日本が世界に誇れる酒を、世に出していきたいと思います。
本年賜りましたご愛顧、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げますと共に、輝かしい新年をお迎えいただけますよう、心より祈念しております。