蔵元便り 柚野の里から

2016年07月

変わらぬ風景

熱波の中に漂うような一日を過ごし、ひと心地ついた夕方。 すうっと窓から心地よい風が入り、その向こうに久しぶりの陽射しに照らされて、グンと伸びた稲がそよいでいます。
幼い頃から変わらぬこの風景に、変わらぬ事のすごさが、この日は胸にぐっと迫ってきました。 脈々と受け継がれてきた里の人々の生活とともに、この田と畑と川と富士の山の風景は、日々の日常の中、当たり前のように溶け込んでいます。
それは、雨が続けば水路の水を調節し、初穂が出れば肥料を施し手を掛ける。 そんな自然の摂理の中にわが身をゆだね、作物を育てている人々のおかげなのだ、と。 そんな気持ちで飲んだ一杯は、日中の暑さを振り払い心にも体にも力を与えてくれる滋味がありました。
先日、三十年来おつきあいのある商社の方が、久しぶりにご来社されました。
変わらぬ風景にホッと安心されたご様子で蔵をご覧になり、この地の水質の良さは、日本全国の中でも指折りであること、 それは、世界の中でも指折りであることを語り、


このような上質の水が湧くこの地で「酒造り」をされることは「造り酒屋」にとって非常に大きな財産であろうと、 話されていかれました。仕事柄、日本各地・世界各地に行かれ、「水」についての知識が豊富な人からの言葉は、力強く心に響きました。
ふるさとの滋味豊かな水と米で酒を醸し、日々の暮らしに心豊かなひとときをお届けしたいと願い、日々酒造りに精進しています。 暑い夏、長い夕暮を富士錦の酒で、どうぞお楽しみください。