蔵元便り 柚野の里から

2016年10月

布団干し

十月十日と言えば、日本一晴れの確率が多い日で有名です。雨ばかりの今年も、この日はしっかり晴れました。なので、この晴れの日にちなみ、毎年の恒例行事をしているお宅も多いと思います。
富士錦の恒例行事は、「布団干し」です。半年ぶりに入蔵する蔵人達の布団を、屋根一杯に干して部屋を掃除し、入蔵の準備をする日にしています。
今年も酒造りが始まる嬉しさと、幼い頃の楽しい来客の準備の記憶が「たくさんのふとんを干す」に繋がって、母と二人で仕度するこの入蔵準備が、私は大好きです。

明治時代に建てられた蔵の二階にある蔵人用の部屋は、武骨な木造造りの大部屋です。「日本酒は大和魂」と、語った先代の畑福杜氏が、「蔵人に個室はいりません。」と頑固に話しました。
「半年間の仲間の和を醸すには、まず時間を守らなければなりません。酒造りは緻密な仕事なので、体力も知力も必要です。
その為には、どんな仕事がきついときでも、規則正しい生活を貫かなければなりません。だから、個室はいらないのです。隣の人の気配が感じられる大部屋にカーテンのしきり位が調度良いと思います。」と…。杜氏の酒造り哲学は、「和を醸す」を体現しているかのように、一徹です。
二階の掃除をしていると、下の仕込蔵で かい棒を廻す、とんとんというタンクの底を突く音が響いてきます。
蔵に住むというのは、酒の息吹を感じながら暮らす事なんだ、と改めて実感します。

富士錦の酒造り、今年は一週間早く始動しました。今年も心を込めて醸し、皆様のお手元へささやかな幸せをお届けできますよう、心こめて酒造りに精進します。